口の中のガン(口腔内腫瘍)へのレーザー治療

オークどうぶつ病院けやき 前谷です。

今回のブログは、ワンちゃんの口の中にできる悪性腫瘍(ガン)に対して、レーザー手術器を使用したお話をしたいと思います。

 

口の中にできるガンは比較的多く、いずれも局所浸潤(その場で奥に奥に広がっていく性格)が強いです。

最も悪い性格の悪性黒色腫(メラノーマ)は肺などに遠隔転移をすることもありますが、扁平上皮癌や線維肉腫といったタイプの腫瘍は、転移をしにくい代わりにジワジワと口の奥の深部に広がっていきます。

こういった口の中のガンに共通するのは、最終的には口の中の痛みや出血がひどくなり、お腹は空くのにご飯が食べれなくてどんどん衰弱していく…というとても残酷な病気なのです。

 

古くから現在に至るまで、口の中のガンに対しては「①顎の骨ごと大きく切除する」+「②術後に放射線治療を行う」or「③術後に抗がん剤を投与する」というのがセオリーです。

しかし、高齢なので大きな侵襲を伴う手術や毎回麻酔をかける放射線治療が現実的に難しい場合、あるいは体力的に術後のダメージが心配で…と飼い主さんが積極的な手術や放射線治療を希望されない場合がとても多いと感じます。

 

口の中にしこりができた場合は、まずどんなタイプの腫瘍なのかを調べるために、一部切り取って病理検査に出す必要性があります。

その際に私は、口の中にも以前のブログでご紹介したイボ取りと同様の蒸散・凝固処置を行っています。

(口の中はイボ取りとは違って全身麻酔が必要となりますが。。。)

 

すぐにまた大きく増殖してしまう場合も多いのですが、不思議とその後再発しないケースなんかもあったりするので、レーザー蒸散をすることの一定のメリットは感じております。

 

こんな子もいました。

口の中に『悪性黒色腫(メラノーマ)』ができたワンちゃんです。

左の上顎、犬歯〜奥歯にかけて黒いしこりで覆われています。

 

組織を取って病理検査に出して、良性か悪性かを調べます。

そのために全身麻酔をかけて切除を行い、その切った歯茎の部分にレーザーで蒸散・凝固処置を丁寧に行いました。

処置後の写真です。腫瘍があった場所が広範囲に炭化しています(焦げたようになっています)。

腫瘍を摘出後、残った粘膜を丁寧にレーザー凝固しました。 先程の写真では見えなかった犬歯や前歯、奥歯が見えるようになっています。

 

ちょっと痛々しく見えるかもしれませんが、処置後のワンちゃんは意外にも痛みはさほどでもなく、スムーズに食事を摂れることが多いです。そこは、レーザーによる鎮痛作用のお陰なのかもしれません。

 

その処置から7ヶ月経過後の、同じワンちゃんの口の中の写真がコチラです。

ホントかな?と思うかもしれませんが、正真正銘同じワンちゃんの処置後7ヶ月後の写真です。

 

ウソのようにどこにも腫瘍らしきものが見当たりません。。。

この子は、処置後に抗がん剤やその他の薬やサプリなども一切処方してないのに!です。

本当に悪性腫瘍なの??と疑われそうですから、病理検査の結果も載せておきます。

 

たまにこういったケースがあるからレーザーは良いなと思います。

もちろんメラノーマという腫瘍は、ものすごく増殖が早いものが多く、見つかった時点ですごく大きくなってしまっているような場合もあります。

そういった場合は、いくらレーザーで処置したからといってもすぐに再発してあっという間に増大してしまうことが多いのも事実です。

メラノーマにはすごく大人しいタイプのものも混ざってるのかな…という印象を抱くことがありますので、たまたまそういったタイプの初期病変であればこのように上手くいくのかもしれません。。。

もしかしたら、ガン細胞の親分である「がん幹細胞」にダメージを与えられたのかな?

あるいは、ガン細胞を壊すことにより、周りの免疫細胞にこんなやつがいるぞ!とお知らせをして、やっつけろ!とガン免疫細胞を活性化することが出来たのか…

うまくいった子の体内でどういったことが起きたのかは分かりませんが、たまにこういうケースもあるんです。

 

他の口の中の腫瘍の場合でも、大きく喉に増殖して気道を塞いでしまい、息苦しさを感じていたワンちゃんにも何度かレーザーで切除後に蒸散・凝固処置をしたケースがあるのですが、数回処置を行った後に大きくなるスピードが落ち、しばらくいい状態をキープできた子なんかもいました。

 

積極的に完治を目指すことが叶わないとなっても、本人のQOLを少しでも改善できるように役立ってくれると良いなと日々色々と考えながら治療を行っております。

今日のブログは長く難しくなってしまいましたが、気になった方は診察時にでもお尋ねくださいね!