腫瘍の治療は、
1. 手術(外科切除)、
2. 抗がん治療(化学療法)、
3. 放射線治療の3本柱からなります。
1. 手術の場合は、できている場所によって簡単に切除が可能な部位と、切除が難しい部位に分かれます。技術的に困難な場合は、大学病院や腫瘍専門医をご紹介させていただくこともあります。
2. 抗がん治療は、腫瘍のタイプによって効果があるものが異なります。リンパ腫のように抗がん剤が非常によく効くものもあれば、抗がん剤だけの治療ではほとんど無効とされる腫瘍もあります。悪性リンパ腫は、いくつかの種類の抗がん剤をローテーションで毎週投与することで、抗がん治療のみで腫瘍を抑えこむことが可能な腫瘍です。抗がん剤は、手術を行った後に、悪性度が高い場合や完全に取り切れてない場合に、術後に補助的に行うこともあります。
現場で飼い主さんとお話していると、抗がん剤の副作用をすごく心配されて治療に踏み込めないケースにも直面します。抗がん剤という薬は、安全域(効果が出る用量と命に関わる中毒用量の差)がとても狭い薬ですので、副作用が出る危険性も十分にあるのですが、それ以上にメリットが大きい場合もありますので、しっかりと説明をしてから決めていただくよう心がけております。
また、最近では新しい考え方の抗がん治療も注目されています。通常の抗がん治療は、ガンを殺してやっつけてしまうことを目標とするので、高用量の抗がん剤の投与が必要となります。これに対して、メトロノミック化学療法という方法は、ある種の飲み薬タイプの抗がん剤をごく少ない量で毎日飲んでいくことで、ガン細胞に少しずつダメージを与えながら、生かさず殺さずガンと共存して行こうという考え方です。抗がん剤の投与量が少ないため、ガン細胞に大きなダメージは与えられませんが、その分、動物への副作用も少なくて済むのです。
「動物も家族の一員」という考え方とともに出てきた新しい抗がん治療です。まだいくつか論文で報告された段階ですが、腫瘍が大きくなるのを抑えて、思った以上に長期間維持できたケースも報告されています。また、新しく飲むタイプの動物用抗がん剤として登場した「パラディア錠」も、本来は肥満細胞種という腫瘍に対しての抗がん剤なのですが、あらゆるガン細胞の増殖をゆっくりにして、ガンと共存できるかもしれないと注目されています(※注: 本来の効能に従った使用ではありません)。そういった薬によって、ガンと診断された動物が、ご家族の皆様とゆっくり穏やかに少しでも長く生活できるようになればと期待しています。
3. 放射線治療は、腫瘍細胞に放射線を照射してガン細胞を殺す治療法ですが、抗がん剤と同様に正常細胞もダメージを受けますので、放射線障害が出る可能性があります。近年は、リニアアクセレーター(リニアック、ライナック)という高線量の放射線をピンポイントにあてることが可能な装置が動物でも使用されるようになり、治療効果は高くなり、放射線障害のリスクも減っています。
放射線治療も、腫瘍のタイプによって効きやすさが異なりますので、腫瘍の種類によっては使うメリットが大きくなります。手術が困難な脳腫瘍などでは放射線治療単独で治療することもありますが、手術で小さくした後に残った腫瘍細胞を叩いたり、手術で取るには大きすぎるような腫瘍で、まず放射線治療で小さくしてから手術を検討したりすることもあります。
デメリットとしては、毎回全身麻酔を必要とすることと、治療が行なえる施設が限られていることです。放射線治療装置は当院にはありませんので、放射線治療が必要と判断したケースでは、山口大学などの放射線治療が可能な施設をご紹介させていただきます。
また、上記の3本柱の治療以外にも、腫瘍の動物の免疫力を上げてQOL:生活の質を維持するためのサプリメントも取り扱っております。サプリメントではありますが、ヒトの方でガンの患者さんの治療成績を向上したり、免疫細胞の数を増やすことが科学的に証明された成分のサプリメントもありますので、お気軽にお問い合わせください。