猫ちゃんの健康寿命を延ばす~関節炎の注射『ソレンシア』新発売!

2023年05月22日 (月)

オークどうぶつ病院けやき 前谷です。

私としては約3か月ぶりのブログ更新となってしまいました。。。

今回は、猫ちゃんのとても画期的な治療薬が登場してましたので、発売から少し経ちましたが久々にブログを書くことにしました。

 

 

年を取ると人間も、膝の関節が痛んで階段の昇り降りが苦痛になったりしますよね。

それは関節の内部で、骨の周りを覆っている軟骨がだんだんとすり減ってきてその下の骨が変形し、動くと痛みを伴う『変形性関節症骨関節炎OAとも呼ぶ)』が起きてくるわけですね。

ワンちゃんも高齢になると、だんだんと関節が痛くなりびっこをひく子が多いので、「年取って関節が痛いのかなぁ…」というイメージはできるかと思います。

しかし、猫ちゃんにも関節炎があることをご存じでしょうか?

前にも、当院の老犬・老猫の予防のページ(詳しくはコチラ)でも書いたことがあるのですが、実は猫ちゃんで関節炎を発症する子は90%以上という報告もあるくらいで、意外と多いんですね。

しかしながら、ワンちゃんのようにびっこをひくことが少ないために見逃しがちな病気と考えられています。

 

タイトルにも書きましたように、2000年頃から『健康寿命』ということがしばしば言われるようになりました。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることがなく生活できる期間」と定義されます。

あちこち痛い痛い言って生きていくわけではなく、元気に快適に過ごせる期間をいかに延ばせるか?という考え方です。

 

これは猫ちゃんにもあてはまります。

猫ちゃんって元々運動神経が良すぎて、多少足が痛くて運動能力が落ちたとしても、一見普通に生活しているように見えるんですよね。

物をしゃべらない分、飼い主さんが注意深く猫ちゃんを観察してあげると気づくことも多いのではないかと。

高いところに上がれない、毛づくろいをしなくなって毛ヅヤがバサバサ、トイレも失敗しちゃう、ほとんど寝てばかり…

そういった行動の変化も、実は関節炎で足が痛いから動きが緩慢になったり、自分で動かさないように制限してたりする結果なのかもしれません。

 

そこで、猫ちゃんが関節炎(OA)になると、日常の行動でどういうしぐさをするのかという資料をゾエティスさんが作ってくださいました。

 

これを分かりやすくアニメーション動画にしてくれたのがコチラです↓

 

 

猫ちゃんは明らかな「びっこ」が出ることは珍しく、このような行動の変化でお知らせしてくれてるんですね。

猫ちゃんの関節炎が多い場所は、後ろ足では膝(ひざ)や股関節(こかんせつ)、前足では肘(ひじ)が多く、もう一つ背骨(せぼね)の馬尾という場所(腰骨と尻尾の間)が多いのです。

前足に関節炎があると、階段の降りや高いところから降りようとするときに、着地で前足に衝撃が加わるのを避けるため、降りるのを躊躇したり、前足だけそーっと伸ばしてゆっくり着地するような行動を取ります。

後ろ足やせぼねに関節炎があると、後ろ足でキックするのが痛いため、高いところに登ろうとするのを躊躇したり、ジャンプしてみたものの一発では登りきれずに、前足を引っかけて前足の力でよじ登ろうとします

このような詳細な猫の行動パターンは、私たち獣医師もこれまで知らなかったところなので、これまで猫の飼い主さんたちにも正確に伝えることが出来なかったのが現状なのです。

 

月1回の注射で関節炎を改善する注射『ソレンシア』

 

前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、今回ご紹介するのは猫ちゃんの関節炎を改善する注射薬『ソレンシア』です。

これはどんな注射かというと、以前に犬のアトピー性皮膚炎の治療薬として『サイトポイント』という注射が登場したことをブログでご紹介してましたが、それと同じモノクロ―ナル抗体製剤となります。

関節炎が起きた際に、関節軟骨の細胞が傷ついて様々な炎症反応がスタートします。

そこで放出された物質があちこちに働きかけて、さらなる関節の破壊や炎症の増悪を次々と引き起こしていくのですが、一連の反応の最初のスタートとなるタンパク質の1つである「神経成長因子(NGF)」という物質を捕まえて機能させなくするという画期的な治療です。

難しいですよねぇ…なんて表現すればよいか。。。ドミノ倒しの最初のドミノが倒れないようにするとでも言いましょうか。

 

1つのタンパク質のみを対象に効果を発揮する注射薬のため、他の臓器への影響がとても少なく、副作用が出にくい治療となるのはサイトポイントと一緒ですね。

そのため、高齢の猫ちゃんでしばしば発症する慢性腎臓病においても、ステージ1・2の慢性腎臓病の猫ちゃんではきちんと臨床試験が行われ、安全性が証明されている治療薬となります。

 

関節炎の猫ちゃんで、これまで実施されていた治療はというと、消炎鎮痛剤やサプリメントなどがあります。

猫ちゃんはなかなか薬を飲ませるのが大変ですし、消炎鎮痛剤の長期使用も腎臓などへの悪影響が心配されます。

この『ソレンシア』のいいところは、月1回の皮下注射だけで良いところでしょうね。

家での毎日の投薬からも解放されますし、副作用の心配も減るのですから、非常に画期的に治療薬ですね。

 

どのくらい効果が期待できるの?

 

ソレンシアでどのくらい効果が期待できるの?ということが皆さん気になることかと思います。

臨床試験の結果から、初回と1ヶ月後の2回接種をした猫ちゃんの76%(4頭中の3頭)で治療効果が出たと報告されています。

実際に私のみている患者さんも、注射後に動きが良くなって走るようになったと仰ってましたし、他の病院の先生の報告でも注射後数日で効果があらわれる子も多いようで、速効性も期待できそうです。

『ソレンシア』は欧州では2年前から発売され使われている注射薬なんですが、欧州での治療を受けた猫ちゃんのビフォーアフターの動画をZoetisさんが作ってくれてますので、まずは一度そちらを見ていただけると早いかと思います。

(効果の程度には個体差がありますのでご了承ください)

 

 

いかがだったでしょうか?

この動画に出てくる猫ちゃんは、治療効果があった子たちの映像を集めてるんだとは思いますが、月1回の注射だけでこれだけ生活の質QOLが改善する可能性があるのですから、やってみたいなと思った方はぜひ一度ご相談ください。

 

Zoetisさんがソレンシアの特設サイト『CATFLIX』というサイトを開設しておりますので、興味を持たれた方は以下のバナーをクリックしてそちらもご覧くださいね!